そして思い浮かんだネタを書く


「くっ――――!」

 子供の胴体よりも明らかに太い腕が振るわれると同時に、セイバーの体が不可視の剣ごと吹き飛ばされた。その攻撃に完璧に反応し、防いだはずのセイバーの体は小石のように軽々と宙を舞い、そして落下する。
 爆発――立ちふさがるモノ全てを薙ぎ倒すバーサーカーを表すのに、これほど適切な言葉は有るまい。

「アーチャー、直接マスターを狙いなさい!」

 ただの一度の攻撃で最良のサーヴァントたるセイバーを劣勢に陥らせたバーサーカーの異常性を悟った凛の行動は早かった。
 即断即決、真正面からでは狂戦士を捻じ伏せるのは難しいと判断し、今は夜闇に紛れ姿を見せない自身のサーヴァントへと小柄な少女の攻撃を命じる。
 数瞬後、
 四方より、姿を見せないままのアーチャーの攻撃である閃光が唸りをあげて奔った。全くの戦闘能力をもたないイリヤスフィールでは回避することは不可能なはずの速度で。
 だが、しかし、

「そんな――――!?」

 ギィィンッという音と共に全ての攻撃が薙ぎ払われた。そこにいたのは紛れも無くバーサーカー。セイバーを追撃し、イリヤスフィールから離れていたはずのバーサーカーは自身の主の危険を悟った瞬間に舞い戻っていた。分厚い太ももから生み出される常軌を逸した移動速度は、一般的なサーヴァントの限界を遥かに凌駕している。

「ふふん、リン。まだ解っていないようね。私のバーサーカーは最強なの。貴方達のサーヴァントじゃ傷一つつける事はできないし、目をかいくぐって私を攻撃することもできないわ」

 目を見開いて驚く凛を、楽しげに見つめてイリヤスフィールが笑う。
 圧倒的。まさしく圧倒的なまでの戦力差だった。セイバーにアーチャー、二人の決して弱くは無いサーヴァントを相手にして、ただの一度も隙を見せないバーサーカーの存在が、その場を強く支配する。

「……ぐっ」

 そんな中、唇を噛み締め、全身を血に赤く染め上げたセイバーが、剣を杖としながらも再びバーサーカーの元へと近づく。死に体では在るが、その目までは死んではいない。それは追い詰められたが故に決意した表情。

「セイバー、何してるんだ! そんな体で何か出来るはずが無いだろ!」
「……いえ、ここで何もできなければそれで終わります。シロウ、宝具を使います、後方へと下がっていて欲しい」

 傷だらけのセイバーを見た士郎が耐えられないとばかりに近寄ろうとするが、ただの一言で動きを止められる。意思の篭った言葉は、要請の形式をとってはいるが、その実、一種の命令だった。
 強制力を伴うセイバーの言葉に囚われた士郎の体が、知らず後方へと下がる。

「それで良いのです――――ではバーサーカー、受けるか我が最強の一撃を」

 士郎が場から離れた事を確認し微かに微笑んだセイバーは、一瞬で表情を引き締めて剣を構えなおした。
 背筋を伸ばし凛とした態度の彼女が持つ剣には大気が渦巻き、これから起こるであろうモノを全ての人間に予想させた。即ち、それは破壊。大気の渦巻き収縮する速度が上昇するたびに、剣に隠された凶暴性がむき出しとなっていく。
 そして、その重圧が臨界点を超え、

  エクス
「約束された――」

 言葉と共に圧倒的な熱量が下段から振るわれた。
     カリバー
「――勝利の剣!」

 草々、大気、コンクリート、存在するもの全てを、固体、液体の是非に関わらず等しく蒸発させながら白銀の騎士から放たれたエネルギーの奔流がバーサーカーへと向かう。
 例え屈強なバーサーカーの肉体をもってしても、その攻撃を防ぐことができるとは思えない。荒れ狂う竜巻の前には人が等しく無力であるという摂理と同じく、強大な熱量をもって奔流は全てを塗りつぶそうとしていた。
 だが、バーサーカーは着ていた和服の袴をはだけさせると、

      大気圏突入する鋼の肉体
「わしが男塾塾長、江田島平八であるっ!!!」

 ただ一言でセイバーの必殺技を黙らせた。裂帛の気合が蒼白の閃光を打ち砕いたのだ。目にしたとしても信じられるはずも無いが、だがそれでも現実。

「……嘘でしょう……まさかバーサーカーが、江田島平八だなんて――――」

 余りにも信じがたい光景に凛が呆然と呟く。

「あいつを知っているのか、遠坂っ!?」

 その呟きを合図として硬直していた体を再び動かして士郎が凛へと詰め寄りながら問う。

「ええ……あれは間違いなく江田島平八。私が知る限り、この国での聖杯戦争でアレよりも厄介な英霊はいないわ。ブリテンキング・アーサーギリシアヘラクレスアイルランドのクー・ホリン、モンゴルのハーン、ペルシアのアフラ・マズダ――――そして日本のEDAJIMA」

 ゴクリッと喉を鳴らす凛。

「そんな凄い奴が何でさっ!? 何でここにいるのさっ!?」
「さあね。遺品でも回収してたんじゃないないの? けど、そんな事よりも、目の前にいるアレがここ日本にいる限りは最強だってことの方が問題なのよ」

 彼女の視線の先には磨き上げられた頭と、貫禄のあるヒゲを生やした壮年の男が立っていた。壮年とは言っても、その体は精力にみなぎり言い表しがたいプレッシャーを絶えず放ち続けている。
 江田島平八――――この国が誇る最強の英霊。 

「これで解った? サーヴァントの実力はその土地の知名度にも比例関係にある。この国でヘイハチを知らない人間はいないわ。何といっても終戦宣言でアメリカが『日本に二人、江田島がいたらアメリカは敗北していただろう』って言ったぐらいなんだから。更に言えばヘイハチに届く知名度を持つ英霊は他にジョー・ヤブキしかいない。そしてヤブキはボクサー。聖杯戦争には参加できないわ」

 イリヤは余裕の笑みを更に深めて告げる。それは戦いの終わりを告げる鐘の音のようでもあった。

「宇宙服無しで大気圏に突入する塾長に勝てるわけがないじゃない……!」

 絶望の含まれた凛の声は、

「―――わしが男塾塾長、江田島平八であるっ!!!」

 バーサーカーの猛々しい咆哮の前に塵と消える。


 そして三分後、凛達はバーサーカーの前に全滅した。



<BAD END∞  ヘイハチエンド>



こんなのどう? えっ、だめ? おかしいなぁ……