医薬品について

 実は私は薬剤師になってしまったので、ちょろっとサイトとは何も関係ないのですが医薬品について語ってみようかと思います。題材は最近何かと話題のジェネリック医薬品についてです。


 このジェネリック医薬品、まあ私が大学の一年生だった頃、つまりは四年前もしくはそれ以前から薬学関係者周辺ではそこそこ話題になっていたのですが、世間様の認知度が急激に上昇してきたのはつい最近ですね。
 ジェネリックというやつは言い換えると後発医薬品になります。後発って何かしらん? と言いますと単純に言ってしまえば新薬の特許が切れてしまって誰でも製造できるようになったので、オリジナルを開発した製薬会社以外の会社が利潤があがると考えて製造した、オリジナルと同じ成分の入った代替医薬品とも言えるでしょう。それでここでミソになってくるのがオリジナルを開発していない会社が製造した医薬品であるということになります。
 普通は何らかの医薬品を開発しようとすれば、まず最初の段階で新規薬剤の原料となりそうな物質のスクリーニングから何から始まって、非臨床試験臨床試験といった膨大な数の試験をこなしていって国から「この化学物質は薬としての効果がありますよ」というお墨付きを得なければなりません。その間にかかる費用は実に何百億円単位になります。まさに一般ピープルからすれば雲の上の金額になります。当然のように資本力の大きい製薬会社にとっても馬鹿に出来ない値段ですので、その新規医薬品の開発のために使用した資金は薬剤の定価の中に含まれており、患者さんが薬を買ってお金を払うことによって徐々に回収していくわけです。まあ薬剤によって違いますが、医薬品のお値段の中の何割かは薬品開発のためのものだと言えます。薬は健康食品と比べて値段が馬鹿高いわけですが、それにはこういった要因も絡んでいたんですねえ。
 で、そこで本題に戻りますがジェネリック。これは予め存在している医薬品をコピーするだけだから開発費用がいりません。だから定価の中には医薬品の開発費用を含ませる必要がないために、総じてオリジナル医薬品よりもお手頃な価格の医薬品が製造できるわけです。
 ただでさえ馬鹿高い医薬品ですから、少しでも値段が安い同じ成分の別の医薬品が出てくれれば、それはお金を払って薬を買っている患者さんの懐を助ける事になり、ひいては医療費を負担しているお国様も支出が減って大助かりと言うわけです。
 だから薬局側もジェネリックを頑張って進めて患者さんの財政の手助けをさせてもらおうと頑張っているわけです。幸いなことに、お医者さんの理解も高く、よっぽど偏屈な先生でなければジェネリックオーケーと処方箋に記入してくださることでしょう。
 まさしくジェネリックは誰にとっても良い話というわけですね。


 ――なんて良いこと尽くめなわけもなく。


 ここから真面目な話に変わりますが、ジェネリック、これは完全に良いこと尽くめではありません。
 私自身も薬剤師ですからその視点から見れば、患者さんにとってジェネリックは確かにプラスになり得るものだとは思っています。ですが、どうにもプラス面だけが世間でアピールされすぎているような気がしてなりません。だから敢えて書かせてもらいますが、ジェネリックには何も問題が無いわけではありません。
 まず第一に必ずしも同じ効能・効果が保障できるとは限らないということがあげられます。「同じ成分が入ってるのに何で同じ効果がないって言えるんだよ!」とか考える人もいらっしゃるかと思いますが、医薬品と言うものは非常にというか変態的にデリケートなものなのです。例え同じ成分が含まれていたとしても、錠剤の形が変わったり、カプセルになったり液剤になったりするだけでも体に与える影響は大きく上下するものなのです。また、完璧に同じ成分を使用していたとしても、製造工程一つ違うだけで効果は別物なんてことも十二分にあり得ます。
 普通は医薬品に関する副作用は動物実験から始まって何度も何度も効果を確かめて、さらに臨床の場で使用されてからもそのデータを回収していくことで、安全域と危険域を区別することができるようになるのです。言っちゃあ悪いですがジェネリックには大事で大切なそのバックボーンがありません。つまり本当に安全だと言い切れるだけの実績がこちらには見えないのです。だから実際に薬を手渡す側としては困るんですよね。紛れも無く人の命が懸かってきますから。そのため安くなくても、確実に安全性が確かめられているオリジナルを勧める薬剤師の存在も少なくないわけですが、そのあたり理解してくださればなと思います。別にこちらも高い薬剤を患者さんに買わせて喜ばしいことなんて何一つ無いわけですから。逆に店のイメージとしてはマイナスしかないですし。
 こんなことを書くと「高い薬を買わせて金をむしりとってるんだろ!」とか思う人も出てきそうですが、本気でそんなことはありえません。というのも日本の調剤制度は点数制度というちょっと難しい制度になっているのですが、この制度だと高い薬剤を売ったから高い報酬が手に入ると言うわけにはいかないのです。逆に、後発医薬品を処方すると、「後発医薬品の手当て」という加算がついて、オリジナルの薬剤を投薬させて貰ったときよりも薬剤師にはお給金が多く入るシステムになっているぐらいです。
 だからまあ、ジェネリックよりもオリジナルがいいですよとかいう薬剤師がいたとしても、そこで「何だテメエ! 金むしりとってるんじゃねえよ医療泥棒が!」とか怒らないで欲しいと切に願います。だって私達も、値段と安全性、さらには自分のお給金を天秤にかけて、それで(患者さんの安全性と薬剤師の収入減少)という選択肢を患者さんに提示しているわけですから。
 それとジェネリックがどうも良いこと尽くめだとは言えない二つ目の理由ですが、言ってしまえばコストを落としすぎていることがあげられます。どういうこと? かと良いますと、全部が全部と言うわけではなくごく稀にですがコストを削るためにありとあらゆる手を使っている会社とかあるんですよ。普通は医薬品とかの情報についてメーカーに問い合わせれば解るわけですが、そういった手抜きの会社はコスト削減のために情報のやり取りをする人員を無くしてしまっています。結果、医療関係者は医薬品に関する満足な情報を得られなくなってしまうわけです。情報が得られないと言う状況は、はっきりいって恐怖でしかありません。もはや製造側に聞かなければ解らないような、「○○病」の患者が服用した場合に副作用は起こりえるか? などといった質問をしてものらりくらりとかわされることもありえるわけです。まあ、常識で考えてそんな危ないところの医薬品を患者さんに勧めるとち狂った医師の先生や薬剤師なんておりませんわな。やっぱりそんなものよりも馴染みがある薬剤を選びたいと思うわけです。


 ただし、色々と悪い点も書きましたが、やっぱり安いと言うことは一つの重要なメリットであるとは思います。特に複数の薬剤を常時服用している患者さんからしてみれば決して小さな問題ではありません。ですから私達としても、それらの金銭面と安全面を秤にかけて慎重にジェネリックあるいはオリジナルの医薬品の選択を提示していこうと考えているわけです。常識的に考えて、安い薬剤を提示すればいいというだけなら世の中に薬剤師と言う存在などいらないのですから。そうなってしまえばただの給料泥棒でしかありません。そういった患者さんのニーズを読み取れてこその薬剤師なのでしょう。まあ、これがどうにも口にするのは簡単で実行するのは難しい問題なのですが。
 折りしも現在は医療改革の真っ最中ですから、ただでさえ経営が難しい中で生まれた難問であると言えるでしょう。ですが同時に薬剤師の職務を果たす上でジェネリックは欠かせないものにもなることは間違いありません。患者さん側からしてみても、それは同様でしょう。


 願わくば双方丸く収まるようにうまく進めていけたらなと思うのですが、中々道は険しそうです。






 PS
 この前テレビの枠を金で買い取ってでかでかと宣伝していた○○調剤とかいう系列の薬局は鬼のようにジェネリックを勧めて、尚且つ鬼の首を取ったかのようにジェネリックの優位性しか患者さんに説明せず、オリジナルの薬品を調剤している薬局を批判していますが、それは私からしてみれば非常に危険なギャンブルだと思います。かかっているのが薬剤師の命ならまだしも、患者の命をチップにしてるんでどうも好きにはなりません。何というか後発医薬品バンバン出したら儲かるから、全部ジェネリックに切り替えたいと思う気持ちは解るんですけどね、思ってそれを実行するのはどうだろうと思うわけですよ。