懺悔

 今日コンビニへと立ち寄った際に、外が寒かったので中に留まって少し暖まろうと思い、飲み物を選んでいる振りをしながらぼんやりと店内を歩き回っていた。
 外は雪。九州では珍しいことに気温は氷点下を下回っていた。
 寒さに強いわけではない私は、せめて太陽でも出てきてくれないだろうかと思いながらガラス越しに外を眺めてみた。けれど一向に変化の兆しは現れようとはしなかった。それどころか降雪量は時間が経過するごとに増えていっているようだった。


 しかたが無い。濡れること覚悟で、このまま雪の中を突っ切ってしまおう。


 そう考え、家までバイクを飛ばす決意をした時に変化が訪れた。――いや、正確には変化を見つけた。
 店の中をうろついている私の視界の中に、一人の中学生の姿が目に入ったのだ。
 その中学生の身長は百五十センチぐらい。体格はやや細め。髪は角刈り。手提げ式の学生鞄と黒色のスポーツバックを纏めて同じ左手に持っていた。
 これだけの要素ならば何ら目を引くものではない。けれど私の思考はその中学生に集中した。
 何故か。――それは中学生が目を忙しなく左右に動かして周囲を警戒していたからだ。


 ――ああ、これは確実に盗るな。


 この少年はあびる○うと同じ道を進もうとしているのだと即座に私は思った。
 傍から見て不審に思えるほど何かに警戒している。一つところに留まらずに、何度も店内を周回している。ちらちらと他の客(←つまりは私)との距離を測っている。
 昔アルバイトをしていた時に「怪しい客はこんなことをする」と店長が教えてくれた特徴のテンプレートのような少年だった。
 外が寒くてコンビニの中で遊べるものを探していた私が、少年の行動から万引きを連想するのに時間はかからなかった。
 だから私は外に出るのを止めて少年を観察することにした。
 コンビニの中にある鏡を使って、うまくギリギリ少年の姿を捉えられる位置をキープし続け一挙手一投足の悉くを注視していく。
 すると最初は菓子コーナー、惣菜コーナー、スキン置き場、飲料コーナーと無節操に店内をうろちょろしていた少年は、やや時間を置いて、ある場所の周囲だけを移動するようになった。
 私は確信した。――そろそろ行動に移す頃だ!
 場所は雑誌コーナー付近。近くには化粧品や栄養ドリンク、ワックスなどの整髪用品のコーナーが存在していた。店員のいる位置からはちょうど死角にあたる場所だった。なおのこと疑念が強まっていく。
 そして私の疑念に応えるかのように少年は、一時は止めていた周囲への警戒を再び始め出した。


 ――え? うそ? 本当に万引きなのかよっ!?


 暇つぶしに始めた探偵ごっこが思わぬ結果を生み出しそうになって私は本気でびびった。
 ていうか、その瞬間を目にしてしまったら店員に少年を突き出さなければいけないのかと焦った。そんな面倒ごとはごめんだっ。
 けれど、少年の怯える小動物じみた警戒は止まらない。怪しすぎる動作が止まってくれない。むしろ増えていった。


 ――待て。人生捨てるなあびるゆ○!


 そう思って適度に混乱した私は雑誌コーナーへと早歩きで近づいていった。早まってくれるなと願いながら。
 けれど、見てしまった。
 少年がその手にある物を手にしている光景を。
 何かやけに派手な色をしたそれは――


 ……エロ本かよ




 今日はそんな日。雪降ったせいで手がかじかんで困った。


 そんな今日の記録を、エロ本を手にしている姿を思いっきり安堵すると同時に嘲笑ってしまった少年に対して捧げます。
 恥ずかしかったのか本を速攻で元の場所に戻して寒い雪が降る外へと、一目散に早歩きで俯きながら出て行ってしまった少年には懺悔の気持ちで一杯です。
 すまないことをした。




 とか、そんなことを雑記に書こうと思っていたのですが、さっき少し話を聞いた結果、最近のエロ本は開いて眺めることができないらしいという未確認情報を変態さんから頂きました。
 どうやら私が見た少年は、どうにかして包装でも破ったりしていた模様。
 ろくな大人になりそうにないな。とか後から思ったり。