ルーンファクトリーについて

 新牧場物語ルーンファクトリーが超面白い件について。
 カブ神様とかマジ素敵すぎです。
 いっそのことSSでも書いてしまおうかしらん。








 その日も変わらずに、酒場でサラさんは笑いながらお酒を飲んでいた。
 だけど。どうしてなのかは分からない。
 普段と同じ光景だったはずなのに、その日だけは何かが違っていた。
 雰囲気が違うと言うか、いつものように笑っている横顔のどこかに影が差しているよう
に、そんな風に僕には見えた。だからなのだろう。本当に気まぐれに、飲めもしないお酒
の付き合いなんてものをやろうと思ったのは。
 そしてその結果。目の前には、程よく酔い潰れて、重たそうな頭がテーブルに突っ伏し
てしまわないよう一生懸命に気張りながら目を見開いて僕のほうを見ているサラさんの姿
がある。僕がホットミルクしか飲まないで相槌を打っている間中、アルコールを飲み続け
ていたんだから、当然といえば当然の結果だ。
 時間はとっくに酒場の閉店時間を過ぎていて、横目にカウンターを眺めると、いつもと
同じようにセバスチャンさんはグラスを磨いていた。迷惑そうにしているとは思えないけ
れど、このままにしておいていいはずもなかった。
「サラさん、帰りましょう」 そう呼びかけてみるけれど、何故かサラさんは首を横に振っ
た。鉛でできているかのように重たそうな瞼を何度もしぱつかせながらも、嫌だと言って
譲らない。
 普段は責任感のある人なのに、よっぽど今は酒に飲まれてるみたいだ。
「――もうお店も閉まる時間です。セバスチャンさんだって、サラさんだって明日も仕事
があるんですから。早く帰らないといけませんよ」
 そう言うと、ようやく今自分がいる場所が他人の家であることに気がついたのか、のろ
のろとした動作で顔をカウンターに向けると、サラさんは顔をしかめた。どうやら理解し
てくれたらしい。
「帰りましょう。結構ひどく酔っているみたいですから、家まで送っていきますよ」


 そうして酒場を出た後、ずるずると体を引きずるようにして、家まで帰ろうとしていた
サラさんを見かねて、僕は気がつけば肩を貸していた。体の力がぐでんぐでんに抜けて、
半分スライム化していたサラさんは最初は嫌がっていたけれど、自分の体が思うように動
かないことに、雪が積もった道でひっくり返った後に気がついたのか、そこからは素直に
体重を預けてくれていた。
 サラさんの柔らかい肌にしなだれかかられている右肩の部分が、変に熱かった。
「あのさ、ラグナ」
 そんな中、浜辺の家にもう少しで到着するという頃になって、それまでずっと無言を貫
いていたサラさんが不意に声を上げた。
「もう少し、時間を潰さないかい? ……どこでもいいからさ」
「どうしてですか?」
 帰る家は目の前にあるのに、どうしてそんなことを言い出したのか分からなくて首をか
しげてみる。するとサラさんは歯切れが悪そうに口を開いた。
「ほら、あたいは今こんなザマじゃないか。ニコルの前じゃ見せられないよ」
 上目使いで、僕の目を見上げながら恥ずかしそうにサラさんはそう言った。確かに、寄
りかかられた体は力が抜けていて、頬もリンゴのように真っ赤に染まっている上に、いつ
もの勝気そうなまなじりはつり上がるどころか垂れている。
 典型的な酔っ払いの姿で、僕を見つめてくる瞳がまるで泣いている様に潤っているとこ
ろには、普段のサラさんの影も形も見えはしなかった。
「そうかもしれませんけど、ニコルだって慣れているんじゃないんですか? その、サラ
さんが酔っ払って帰ってくることには」

「少しぐらい酔っ払って帰ってくるぐらいならね。けど、こんなに体の自由が利かなくな
るぐらいまで飲んで、家に帰ったことなんてないんだ。実際、ここまで飲んだのはニコル
を産んでから初めてかもしれない。だからさ、余計にこんな姿を見せたらニコルに心配を
かける気がするんだよ」
「そうなんですか――」
 サラさんが女手一つでニコルを育てていることは知っている。だから、少しでもニコル
に情けない姿を見られたくないという気持ちもよくわかった。だけど、今はもう冬で、し
かも真夜中だ。外で話しながら時間を潰すには寒すぎた。アルコールでいくらサラさんの
体が温まっているとは言っても、下手をすれば凍死しかねない。
 当然、酒場ももう閉められていることだろう。もともと限界まで粘って開けて貰ってい
たのだから、また帰ってテーブルを占領するわけにもいかない。
「だけど、どこで時間を潰しましょうか。僕は元々、寒い洞窟で時間を潰したりするのに
は慣れてますけど、サラさんはそうじゃないでしょう?」
「確かにそうだけど。しかもあたい、こんな薄着だから、その辺りで時間を潰してたら、
ぽっくり逝っちゃうかもしれないね」
 他人事のようにサラさんは言う。そして言葉を続ける。
「だけど、――本当に今は帰りたく無いんだよ、ラグナ」
 懇願するように、泣くような目をしたサラさんが僕を見つめてくる。その視線を受ける
と、どうしても首を横に振ることはできなかった。
 だから僕はできれば世間の目から、一応はサラさんを守るために提案しなかった選択肢
を出すことにした。
「……そうですね。なら、今来た道を戻る事になりますけど、――僕の家に来ますか? 
きっとあそこなら、寒くも無くて時間も潰せると思いますよ」
 意外にもサラさんは僕の提案に、悩む素振りも見せずに 「それでいいよ」と頷いた。


 それから少しして、僕の家にたどり着くなりサラさんは限界に来ていたのか、まずベッ
ドに倒れこんだ。どうやら酒を飲んだ後に、色々と歩き回ったせいで完全にアルコールに
やられてしまったみたいだ。
「酔い覚ましに何か飲みますか? 冷蔵庫に色々と入ってますから、一通りの飲み物は出
せると思いますよ」
「そう。なら、野菜・オレでももらえるかい?」
「分かりました。すぐ作りますから、ちょっと待っててくださいね」
 冷蔵庫の中に野菜ジュースと牛乳があることを確認しながらそういうと、どこか呆れた
ような声色で、ベッドに横になったままのサラさんが口を開いてきた。
「……本当に何でもあるんだね。あんた、いい主婦になれるよ。鍬や、それに剣なんて捨
ててしまって、包丁でも握ってたほうがいいんじゃないの?」
「それは……、ちょっと面白そうですけど、勘弁してください。料理は嫌いじゃないです
けど、それでも趣味の部分が大きいですし、何より僕は正直、誰かに作ってもらった物の
ほうが好きなんですよ。自分の料理は、どうも味気なくて」
 作り置きしてあった野菜ジュースに、ゆっくりと今朝搾り取った牛乳を垂らしていくと、
緑色をしていた野菜ジュースが白く染まっていく。泡立たないようにスプーンでそれを混
ぜて、心持ち砂糖を加えたら野菜・オレができあがる。
「はい、どうぞ。ちょっと冷たいかもしれませんけど」
「ん、ありがとね」
 会話を続けながらベッドに寝転がるサラさんにコップを差し出すと、サラさんはゆっく
りと上体を起こした。出したコップを両手で包み込むようにして受け取ると、そっと中身
に口をつける。
「……酒が入ってるからかな。これくらいの冷たさがちょうど良いよ」
 サラさんはぽつりと呟く。
 僕はその姿を眺めながら、一方後ろに下がってテーブルに備え付けの椅子に座り込んだ。
余り近くにいてはいけない。どうしてか、そんな気がしていた。だから、距離を取った。
 サラさんは僕が離れたことに気がつくと、一瞬だけ顔を上げてこちらを眺めたけれど、
すぐにまたコップの液面へと視線を戻した。そして何も言葉を発しなくなる。
 少しだけ、気まずい雰囲気が流れ始めた。チクタクと時計の音だけが部屋の中で忙しな
く響いている。